遺伝性血管性浮腫(HAE)は1850年代にHeinrich Quinckeが最初に詳述し、1880年代にSir William Oslerによって再び記述されています。この珍しい遺伝性血液疾患の特徴は、突発性の浮腫(edma)で、顔や手足、生殖器、消化管、上気道に症状が現れることです。腹部の腫れは、痛みや嘔吐、下痢を伴います。気道の腫れは致命傷となり得ます。
Landermanは、HAE患者由来の血清にいくつかの凝固系構成成分に対する阻害活性が欠如していることを発見しました。1 1963年、DonaldsonとEvansは、HAE患者由来の血清にはC1インヒビターが欠乏していることに気づきました。2 これらのことから、C1インヒビターはFactor XIIやカリクレイン、ブラジキニンのような凝固成分と相互に作用しあう阻害タンパク機能を持っていると考えられます。HAEは優性遺伝とされる唯一の補体欠乏症です。(たった一つの異常遺伝子が正常遺伝子と結合して欠乏症を作り出すことができ
ます)3
HAE患者全体の80~85%を占めます。C1インヒビター量が第11番染色体の遺伝子欠損により正常値よりかなり少なめです。これは遺伝によるものと考えられていますが、遺伝子の自発的な突然変異によるケースも多数あります。更に補体タンパクC3とC1qが正常量であるのに対して、C4の量は常に少ないです。HAE-1には抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンには効きません。
HAE患者の15-20%を占めます。C1インヒビター量は正常または上昇していますが、C1インヒビターの機能は低下しています。また、C4の量はすくないのですが、C3とC1qの量は正常値です。HAE-IIには抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンは効きません。
(C1インヒビター活性正常)症例数は現在不明ですが、患者には血管性浮腫の家族歴があります。C1インヒビターの量及び機能は正常。極めて少数の症例で凝固因子XIIの遺伝子の変異が認められますが、この変異の病気への影響は証明されていません。HAE-IIIは主に女性に発症し、時には妊娠やエストロゲン不妊薬の使用に関連した浮腫を伴うことがあります。HAE-1やHAE-IIと同様にこのIII型にも抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンは効きません。4
後天性血管浮腫にはAAE-IとAAE-IIの2種類があります。AAE-Iは、リンパ腫あるいは癌腫の患者にみられ、その特徴はC1インヒビターの活性値が低い6 ことに加え、C1q量が著しく減少していることです。AAE-IIはC1インヒビターの機能を妨害する自己抗体が原因です。治療方法は、癌腫の場合は化学療法によって、また自己抗体の場合は免疫抑制によって血管浮腫の根本的な原因を取り除くことです。3
アナボリックステロイドは、一般的に最も多く処方される治療薬です。残念ながらステロイド療法を子供に対して行うことはできません。また多くの女性にはステロイド治療に対する耐性がありません。また、ステロイド療法は肝臓毒性やコレステロールレベルの増加を引き起こす可能性もあります。
現在HAEの治療薬としてFDA認可されているC1インヒビター製剤はCinryze™ (ViroPharma)とBerinert® (CSL Behring)の2製品です。Cinryze™ (ViroPharma)はC1インヒビター濃縮製剤でHAEによる発作を防ぎます。またBerinert® (CSL Behring)もC1インヒビター濃縮製剤で、腹部や顔面、喉頭部の発作を治療に使用されます。5