合同会社NanoSiC NanoPow

リチウムイオン電池アノード材料について

1976年に市販されたリチウムイオン電池には金属リチウムが負極材料として使われましたが、1989年にハンディ携帯電話に採用されたカナダ製の電池から発火し金属リチウム電極タイプの開発は一時下火となりました。1984年に炭素材料が有望な負極材料として見出されています。1980年に見いだされた正極材料LCO(LiCoO2)が報告され、1991年に現在のLiイオン電池の原型となるLCO/C電池が市場に登場しました。以来、正負極材料、電解液等の改良でエネルギー密度と容量は4倍以上向上しています。

Siは非常に高いリチウム蓄積能力を持っています。リチウムイオン電池材料として理論的蓄積容量は3600mAh/gであり、現在アノード材料として主に使用されているグラファイト(372mAh/g)のおよそ10倍の容量を持っています。Siのリチウムイオン電池の応用で問題となるのは、リチウムイオン吸収によって生じる体積膨張が最大400%に達することで、これに伴いSi粒子の破壊や容量特性劣化が顕著になります。

Siをリチウムイオン電池に導入する際の具体的問題点は2つに分けられます。
1) 体積膨張/収縮の繰り返しによる粒子の破壊
2) 固体電解質界面層(SEI)層形成に伴う容量減少

SEI層形成はSiアノードだけではなく従来からの黒鉛電極でも問題になっていた現象です。
黒鉛電極もLi+の充放電に伴って体積膨張/収縮を繰り返します。黒鉛はグラフェンを多層積層した構造をしており、その層間にLi+を蓄積します。その隙間に外部からLi+が挿入される際に入口部が破壊されます。そのときグラファイトの新しい面が表出し、そこでLiイオンに付随した溶媒が分解されてSEIが形成されます。このSEI層は充放電を繰り返すごとに新たに形成されるので次第に厚さを増します。SEIの成長にはLi+と電解液を消費するので充放電に使用されるLi+は次第に減少していきます。さらにSEIは電気を通さないため内部抵抗が大きくなり電池特性が劣化します。SEIは2層から構成され、内側はLi2Co3などの緻密な無機物層、外側は多孔質の有機物層で数十nmの厚さに達します。電池特性劣化の要因はいくつかありますが、このSEI形成がアノード特性の劣化(容量低下)に大きく関係しています。一方、電池の劣化はカソード(正極)・アノード(負極)両者の特性に依存しており、電池全体の大きな劣化要因は正極にあると報告されています。

結晶Siはグラファイトのような層状構造はとらず、ダイヤモンド構造を取っています。この構造は比較的隙間の多い構造をしており、その3次元的な隙間にLi+が蓄積されます。この構造によりグラファイトよりも10倍以上効果的にLi+を蓄積することができます。

一方、多くのLi+を吸収した結果その体積は400倍近くに達します。結晶シリコンには、ある特定の方向に割れやすい(へき開)性質を持っています。このためミクロンオーダーのシリコン粒子をアノードのグラファイトに加えた場合膨張収縮に伴って結晶の破壊が起こり、このときグラファイトの場合と同様にSEI層が形成され、充放電回数に伴ってSEI層は次第に厚さを増していきます。このためSi結晶粉をグラファイトに加えるとその初期容量は劇的に増大しますが、SEI形成による劣化の度合いも大きくなります。Siの割合を増やす方が容量アップにつながるわけですが、この劣化を抑えるために現状のSi添加割合は12%以下にとどまっています。一方、蓄積容量、電気導電性は結晶シリコンに劣りますが、劣化率がSiより小さいためにアモルファスSi、シリコン酸化物がこれまで使用されてきました。アモルファスシリコンは結晶シリコンのようなへき開面が存在しないので、結晶より機械的に強いと推定されます。一方、結晶シリコンもそのサイズを150nm以下まで下げると膨張収縮による破壊が起こらなくなり、SEI形成による劣化が抑えられるようになります。このため高容量を維持しながら劣化を抑える手段としてナノ構造シリコンがアノード材料として注目を集めています。

SEI層の成長を抑えるためには電解液の改良も重要で、並行して開発がすすめられています。アノード容量はシリコン電極の導入で10倍まで増やせますが、電池全体の容量を増やすためにはカソード容量も同時に増やす必要があります。現状ではアノード電極の性能だけが大幅にアップしてもカソード側の制約で全体の容量増加は30-60%程度になると予想されています。

これまでの試みにもかかわらず、アノードをすべてSiにできるかどうかはまだはっきりしていない状況ですが、現在研究開発が白熱しています。研究レベルでは複雑な構造を持ったSiと有機材料、炭素材料との複合体など様々な構造体が発表され劣化を効果的に抑制したという発表がありますが、複雑な工程を必要とするものが多く製造コストも含めて検討されていくと思われます。ナノシリコンは単独でグラファイトに添加される他に、複合アノード電極を作製するための原料としての用途もあります。通常、ナノシリコンは酸化しやすく空気中で不安定です。Nanopow ASのバッテリーアプリケーション向けナノシリコンは表面にアモルファスグラファイト層がコーティングされており、空気中で安定で電気的特性が改善されています。

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