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2021年6月の記事

補体について (1)

2021年6月1日

私たちの体には外部から侵入してくる抗原と呼ばれる病原性のウイルスや細菌などの異物を排除する免疫と呼ばれる機能が備わっています。免疫機能は抗体をはじめ様々な細胞やたんぱく質が複雑に関与することで抗原を排除するためのシステムを形作っています。

この免疫システムに補体と呼ばれるたんぱく質分解酵素があります。補体は免疫システムの中で様々な働きをしていますが、まだその働きはすべて解明されたわけではなく、現在各所で研究が進められています。

これから何回かに分けて補体が関係していると思われる病気に関する情報を掲載します。
尚、この情報は外部企業様の英文資料の翻訳です。誤訳と思われる個所がございましたらご指摘願います。

まずは補体系について

補体系は30以上の体液や膜結合型タンパクから成り、古典経路(Clasical)、代替え経路(Alternative)、レクチン経路(Lectin)、末端経路(Terminal)という4つの重要な経路に組織化されています。

古典、代替あるいはレクチンのいずれかを経由する一連の特殊な活性化段階によって、補体タンパクは炎症の誘導、免疫複合体の除去、細胞膜の破壊、免疫反応の抑制など一連の反応を仲介しています。補体カスケードの欠如によりオプソニン効果の無効化や、侵入してくる病原体を溶解する機能に不備が発生するため、人は感染症にかかりやすくなります。逆に補体系によって引き起こされた炎症は阻止しないと虚血再灌流障害のような組織の損傷につながる可能性があります。補体タンパクやその断片は関節リウマチ、SLE(全身性エリテマトーデス)、急性糸球体腎炎などいくつかの自己免疫疾患に関与していると考えられています。② 

ごくわずかな例外を除けば、補体タンパクC3が分解されていなければ補体系は活性化されていません。C3は血液中に最も多く含まれている補体タンパクです。(>1000μg/ml)C3はC3aとC3bの二つに分解されます。大きいほうの断片であるC3bはC5を分解する酵素を形成し末端経路を活性化して細胞分解を誘引します。

古典経路の活性化 (Activation of the Classical Pathway)

古典経路は、通常免疫複合体(抗原-抗体複合体)によって活性化されます。補体タンパクC4は2つの活性化物質C4a(anaphylatoxin)とC4bに分解します。古典経路の活性化によってC3を分解する酵素、C3転換酵素(C3 Convertase)が生成されます。C4bは分裂したC2とC2aとの共同作用によりC3転換酵素を形成します。

レクチン経路の活性化 (Activation of the Lectin Pathway)

レクチン経路はC4とC2の働きによってC3転換酵素(C3 Convertase)が生成されることで活性化するという点で古典経路と類似していますが、レクチン経路は活性化に抗原-抗体複合体を必要としません。③ 

レクチン経路の活性化は、例えばサルモネラやナイセリアのようなバクテリア、カンジダ-アルビカンスのような菌類病原体、HIV-1やRSVなどのウィルスなどを含む微生物の糖質や糖たんぱく質に存在するマンノースやグルコース、その他の糖類にマンノース結合レクチン(MBL)が結合することで始まります。

MBLはMASP-1(MBL関連セリン分解酵素)、MASP-2、MASP-3とともに複合体を形成します。 MBLが病原体表面のマンノース残基に結合するとMASP-1とMASP-2は、C4をC4aとC4bに分解し、C2をC2aとC2bに分解します。古典経路の場合と同じように、C4bとC2aは病原体表面で結合しC3転換酵素を形成します。

生体内での過剰な補体活性化が起こらないようにするために、補体タンパク一つであるファクター1がC4bを分解してC4d、C4cという2つの新しい成分を作ります。

C4dは古典経路、レクチン経路において特異的なので、検体中のC4d検出は、C4の活性化、すなわち古典経路、レクチン経路の活性化を確認することになります。

代替経路(副経路)の活性化 (Activation of Alternative Pathway)

代替え経路は加水分解されたC3(C3-H2O)と適切に反応する微生物表面の成分(例えばバクテリア表面のリポポリサッカライド(LPS))によって活性化されます。古典経路と同様にC3分解酵素、代替え経路C3転換酵素を生成します。この酵素の生成中にB因子がD因子に分解されBaとBbになります。

B因子は代替え経路において特異的なため検体中のBbを検出することでB因子の活性化、すなわち代替経路の活性化が確認できます。

C3の分解 (C3 Cleavage)

いったん古典経路、レクチン経路、代替経路のいずれかが活性化されるとC3転換酵素(C3convertase)が生成されます。この酵素はC3をC3bとC3a(強力なアナフィラトキシン)に分解します。C3bは補体の生物学的活性における中心的存在です。C3bは遊離アミノ基あるいはヒドロキシル基を含む細菌の表面に共有結合によって付着し、オプソニン化を引き起こし、最終的には貪食作用を促進します。また、C3bはフィードバックループにより、より多くの代替経路C3転換酵素を生成します。 更にC3bはC5転換酵素の形成にも関与しています。C3bは生体内でC3bが不活性C3b(iC3b)に分解されることで制御されます。タンパク質は補助因子(Factor H、補体レセプター 1、CR1)の存在の下にFactor Iによって分解されます。反応は体液中あるいは細胞表面に共有結合したC3bによって生じます。

C3は古典経路、レクチン経路あるいは代替経路のいずれかによって活性化されるので、検体中のiC3bあるいはC3aの検出は補体がいずれかの経路によって活性化されたことが証明できます。管理環境下で、ある生体材料にさらされた人血清中のいずれかのFragment量が増加した場合、それはその生体材料が補体システムを活性化したということの証明になります。

末端経路の活性化(Activation of the Terminal Pathway)

古典経路、レクチン経路、代替経路のいずれかによって生成されたC3bは新しい酵素C5転換酵素(C5 convertase)の形成に関わります。この酵素はC5を最も強力なアナフィラトキシンであるC5aと、C5bに分解します。C5bは他の4つの補体タンパク、C6、C7、C8、C9との相互作用により膜侵襲複合体(Membrane Attack Complex、MACまたはTerminal Complement Complex、TCC)を形成し、細胞を分解します。生体外における検体では、生成されたC5bは細胞分解までには到りませんが、体液中に転換され溶解性の不活性複合体、SC5b-9を形成します。

C5は末端経路において特異的であるため、検体中のC5aあるいはSC5b-9を検出することで、末端経路が活性化されたことを証明できます。

要約しますと、活性化成分であるC3、C4、C5あるいはB因子を測定することで、補体システムが病原体にさらされるか、特殊な病態に反応した結果として、血清やプラスマ中で活性化されているかどうかを確定できる可能性があります。更にその測定によってどの経路で活性化されているかを決定できる可能性もあります。補体システムにおける活性欠損か過剰な活性化かを見極めることは、補体に関わる病気と闘うための治療法を開発するうえで非常に重要です。

出典:福岡大学理学部様

References

  1. Liszewicki, MK and Atkinson, JP. The Complement System. In: Fundamental Immunology. Paul, WE (ed.) (1993).
  2. Botto, M et al. Complement in human diseases: Lessons from complement deficiencies. Mol. Immunol. 46(4):2774-2783 (2009).
  3. Wallis, R et al. Paths reunited: initiation of the classical and lectin pathways of complement activation. Immunobiol. 215(1):1-11 (2010).
  4. Degn, S et al. Map44, a human protein associated with pattern recognition molecules of the complement system and regulating the lectin pathway of complement activation. J. Immunol. 183(11):7371-7378 (2009).
  5. American Society for Testing and Materials. F2567-06: Standard Practice for Testing For Classical Pathway Complement Activation in Serum by Solid Materials. (2010).
  6. American Society for Testing and Materials. F2065-00: Standard Practice for Testing For Alternative Pathway Complement Activation in Serum by Solid Materials. (2010)
報道通信社より発行されております月刊経営情報誌『Anchor』(アンカー)のインタビューを受けました。インタビューはびわ湖大津館にて行われ、当日のゲストインタビュアーは元光GENJIの大沢樹生氏。経歴や起業に至る経緯、今後の抱負等約40分のインタビューでした。このインタビューの内容はAnchor 8月号の「地域再生─企業は人なり─」に掲載されました。

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