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2022年3月の記事

補体について (10)

2022年3月2日

補体系が関わる病気 9

Alzheimer’s Disease
~ アルツハイマー病 ~

アルツハイマー型認知症(AD)は、治療法がなく、進行すると症状が悪化し、最終的には死に至る認知症で、1906年にドイツの精神科医・神経病理学者であるAlois Alzheimerによって初めて報告されました。1 多くの場合、ADは65歳以上の高齢者で診断されますが、発症率の低い早期発症型のアルツハイマー型認知症はもっと早い時期に発症します。2006年には全世界で2,660万人の患者さんがいました。アルツハイマー病は、2050年には世界で85人に1人の割合で発症すると予測されています 。2

アルツハイマー型認知症の原因や進行状況はよくわかっていません。ADのバイオマーカーの同定を目的とした最近の研究では、認知症患者は、ADに進行しない軽度の認知障害患者と比較して、脳脊髄液(CSF)中の補体タンパク質C3およびC4の上昇が認められました。3 ADにおける補体の活性化は、プラークや神経原線維短グル(NFT)の主成分であるアミロイドベータ(Aβ)やタウタンパク質の凝集体と補体タンパク質の相互作用によって引き起こされると考えられています。凝集したAβはC1qと結合し、古典的な補体経路を活性化します。4 異なる補体成分の生物学的活性については、以下の表を参照下さい。また、アルツハイマー病患者の脳前頭葉皮質では、ファクターBのmRNAが観察されています。5
代替経路も活性化している可能性があります。)

ADでは、補体系の阻害剤が減少します。C1インヒビターはAD患者の血漿中で減少しており、これは神経細胞やアストロサイトが活性型のタンパク質を分泌できなくなった結果であると考えられています。6,7 ADでは脳の免疫細胞であるミクログリアは、反応性が高くなり、神経細胞の減少や認知機能の低下に関与していると言われています。ADのミクログリアは、補体因子の影響を受けて、保護的な表現型と有害な表現型のいずれかをとることが示唆されています。8

アルツハイマー病に関連する補体制御用達タンパク質の生物学的活性9

補体成分生物学的活性
C1qAβの凝集を促進する;Aβのクリアランスを促進する;Aβ
によるミクログリアのサイトカインの分泌を促進する
C3aアナフィラトキシン(毛細血管の透過性を高める);興奮
毒性から神経細胞を守る
C3b免疫の付着とオプソニン化(食細胞ミクログリアによるAβ
の排除を促進する可能性あり)
C4aアナフィラトキシン(弱)
C5aアナフィラトキシン;興奮毒性から神経細胞を保護する;
ミクログリアの化学的誘引;アポトーシスを抑制する;Aβ
に刺激された単球からのサイトカイン放出を増加させる。
C5b-9神経毒性;亜致死濃度では炎症促進と抗炎症作用の両方を
持つ可能性あり

ADには補体系が関与しているということがどんどん証明されてきており、この補体系を利用した正確なバイオマーカーが診断や予測に有効であれば、アルツハイマー病の治療のための新しい治療法の開発や試験を行うための優れたツールとなります。10

References

  1. Berchtold, NC and Cotman, CW. Evolution in the conceptualization of dementia andAlzheimer’s disease: Greco-Roman period to the 1960s. Neurobiol. Aging. 19(3):173-178 (1998).
  2. Brookmeyer, R et al. Forecasting the global burden of Alzheimer’s disease. Alzheimer’sand Dementia 3(3):186–91 (2007).
  3. Daborg, J et al. Cerbrospinal fluid levels of complement proteins C3, C4 and CR1 inAlzheimer’s disease. J. Neural Trans. 119(7):789-797(2012).
  4. Loeffler, DA. Significance of complement activation in Alzheimer’s disease. TouchBriefings pgs. 52-55 (2008).
  5. Strohmeyer, R et al. Detection of complement alternative pathway mRNA and proteins inthe Alzheimer’s disease brain. Mol. Brain Res. 81:7-18 (2000).
  6. Zhang, R et al. Mining biomarkers in human sera using proteomic tools. Proteomics4(1):244-256 (2004).
  7. Veerhuis, R et al. Complement C1-inhibitor expression in Alzheimer’s disease. ActaNeuropath. 96(3):287-296 (1998).
  8. Crehan, H et al. Microglia, Alzheimer’s diease, and complement. Int. J. Alzheimer’s Dis.2012:1-10 (2012).
  9. Loeffler, DA. Using animal models to determine the significance of complement activationin Alzheimer’s disease. J. Neuroinflamm. 1:18-30 (2004).
  10. Aiyaz, M et al. Complement activation as a biomarker for Alzheimer’s disease.Immunobio. 217:204-215 (2012).
報道通信社より発行されております月刊経営情報誌『Anchor』(アンカー)のインタビューを受けました。インタビューはびわ湖大津館にて行われ、当日のゲストインタビュアーは元光GENJIの大沢樹生氏。経歴や起業に至る経緯、今後の抱負等約40分のインタビューでした。このインタビューの内容はAnchor 8月号の「地域再生─企業は人なり─」に掲載されました。

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