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2021年10月の記事

補体について (5)

2021年10月5日

補体系が関わる病気 4

Ischemia Reperfusion Injury
~ 虚血再灌流傷害 ~

虚血は組織への血液供給が制限されることで生じる細胞の代謝に必要な酸素とグルコースが不足した状態です。虚血の長さや程度により毒性物質が細胞内に蓄積され、臓器の機能損失が引き起こされます。例えば、発作、心筋梗塞、鎌状赤血球症などの異なる原因で引き起こされた血管閉塞に加え、臓器移植中に大きな影響を与えることもあります。閉塞部分の除去あるいは、臓器の移植によって血流が再開すると細胞組織に酸素が再び供給され、組織の修復機構が働くきっかけとなります。しかし蓄積した毒素が器官系に流れ込むと他の臓器や虚血性臓器の再生に悪影響を及ぼす可能性があります。虚血再灌流傷害を引き起こす主な要因として好中球が刺激されることと補体の活性化があげられます。1,2 心筋梗塞における補体の活性化は1970年代に詳述されています。3

補体成分の完全枯渇や特定経路の阻害は虚血再灌流傷害の創薬ターゲットを特定するために使用されてきました。それらの研究の大半は古典経路やレクチン経路に向けられていました。心筋梗塞につながる虚血再灌流傷害の初期の研究では C3(補体成分 3)を完全に枯渇させるためにコブラ毒因子(Cobra Venom Factor、CVF)を使用していました。4 しかし免疫原性の問題からこの処置は治療には使用されませんでした。2007年に人型 CVF で C3 を枯渇させる HC3-1496 が開発されました。この化合物はマウスモデルにおいて梗塞サイズを減少させ心機能を維持するために効果的でした。5 補体活性を阻害することでいろいろな臓器の虚血還流傷害が軽減されることも明らかにされてきました。6,7,8,9

治療用として開発された最初の特異的阻害剤の一つがリコンビナント可溶性受容体 1 (sCR1)でした。sCR1 は心筋梗塞、実験的な肺や肝臓移植、腸の虚血再灌流傷害に対して有効でした。sCR1 は脳卒中や骨格筋の受傷中、保護機能を発揮することも示唆されましたが臨床試験にまでは進んでいません。

C1 インヒビターは心筋梗塞と肺移植の両方に対して保護効果があることが明らかにされてきました。新規の C1sインヒビターや人崩壊促進因子(DAF、CD55)由来のキメラインヒビターや補体調節蛋白質(MCP、CD46)も心筋梗塞(C1 インヒビター)10 や異種移植(キメラインヒビター)11 の古典経路やレクチン経路活性化モデルを妨げるために利用されてきています。ラットマンノース結合レクチンに対するモノクローナル抗体を使ってレクチン経路をブロックするする実験を行ったところラットにおける虚血後の心筋梗塞障害が低減しました。12

C5 と C5a のインヒビターや遮断抗体(blocking antibody)は治療研究のもう一つのターゲットです。C5 と C5a の遮断はラット小腸虚血・再灌流(ischemia-reperfusion, IR)モデルにおいて保護作用を示しました。13 C5 抗体により、ラットにおける心筋梗塞後のネクローシスや細胞アポトーシスを著しく減少しました。14 ブタの場合、C5a 抗体を使用すると IR(虚血再灌流)後の心筋障害や心臓内皮機能障害を低減させました。15

初期の研究において C3, C4 欠損マウスは骨格筋と腸の障害から守られていましたが 17、C4 欠損マウスでは腎臓の IR への顕著な保護が見られなかった(C3、C5,C6 欠損マウスでは保護されていた)16 ということから、IR における補体活性化経路は臓器によるかもしれないということが考えられます。17

References

  1. Riedmann, NC and Ward, PA. Complement in ischemia reperfusion injury. Am. J.Path. 162(2):363-367 (2003).
  2. Chan, RK et al. Ischaemia-reperfusion is an event triggered by immune complexes and complement. Brit J. Surg. 90:1470-1478 (2003).
  3. Hill JH and Ward, PA. The phlogistic role of C3 leukotactic fragments in myocardial infarcts of rats. J. Exp. Med. 133:885-900 (1971).
  4. He, S et al. A complement-dependent balance between hepatic ischemia/reperfusion injury and liver regeneration in mice. J. Clin. Invest. 119(8):2304-2316 (2009).
  5. Gorsuch, WB et al. Humanized cobra venom factor decreases myocardial ischemia-reperfusion injury. Mol. Immunol. 47:506-510 (2009).
  6. Hofmann, U et al. Nothing but natural: Targeting natural IgM in ischaemia/reperfusion injury. Cardio. Res. 87:589-590 (2010).
  7. Tofferi, J et al. C3b-independent complement activation in ischemia/reperfusion mesenteric tissue injury in autoimmune prone (B6.MRL/lpr) mice. ISRN Immunol. 2012.
  8. Arumugam, TV et al. Complement mediators in ischemia-reperfusion injury. Clin. Chim. Acta. 274:33-45 (2006).
  9. Gorsuch, WB et al. The complement system in ischemia-reperfusion injuries. Immunobio. 217:1026-1033 (2012).
  10. Buerke, M et al. Novel small molecule inhibitor of C1s exerts cardioprotective effects in ischemia-reperfusion injury in rabbits. J. Immunol. 167:5375-5380 (2001).
  11. Kroshus, TJ et al. A recombinant soluble chimeric complement inhibitor composed of human CD46 and CD55 reduces acute cardiac tissue injury in models of pig to human heart transplantation. Transplantation 69:2282-2289 (2000).
  12. Jordan, JE et al. Inhibition of manose-binding lectin reduces postischemic myocardial reperfusion injury. Circulation 104:1413-1418 (2001).
  13. Arumgam, TV et al. Protective effect of new C5a receptor antagonist against ischemia-reperfusion injury in the rat small intestine. J. Surg. Res. 103:260-267 (2002).
  14. Vakeva, AP et al. Myocardial infarction and apoptosis after myocardial ischemia and reperfusion: role of the terminal complement components and inhibition by anti-C5 therapy. Circulation 97:2259-2267 (1998).
  15. Tofukuji, M et al. Anti-C5a monoclonal antibody reduces cardiopulmonary bypass and cardiopledia-induced coronary endothelial dysfunction. J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 116:1060-1068 (1998).
  16. Zhou, W et al. Predominant role for C5b-9 in renal ischemia/reperfusion injury. J. Clin. Invest. 105:1363-1371 (2000).
  17. Williams, JP et al. Intestinal reperfusion injury is mediated by IgM and complement. J. Appl. Physiol. 86:938-942 (1999)
報道通信社より発行されております月刊経営情報誌『Anchor』(アンカー)のインタビューを受けました。インタビューはびわ湖大津館にて行われ、当日のゲストインタビュアーは元光GENJIの大沢樹生氏。経歴や起業に至る経緯、今後の抱負等約40分のインタビューでした。このインタビューの内容はAnchor 8月号の「地域再生─企業は人なり─」に掲載されました。

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